はじめに
神道式の葬儀は仏教ほど広範囲に浸透していないため、「霊璽」と言われても分からない人も多いのではないでしょうか。
霊璽は仏式で使用する位牌に近いものといわれますが、仏教・神道を問わず意味や役割を理解していない人は意外に多く、用意するタイミングや扱い方に迷うケースもります。
そこで今回は、神道の葬儀に必要な霊璽について解説していきます。
霊璽とは?
神道式の葬儀では「霊璽」を用意しますが、歴史を辿ると源流は中国から伝わった儒教にあり、神道・仏教それぞれの解釈によって霊璽と位牌に分かれたとされています。
神道では、亡くなった人は霊魂となってその家を守り続けると考えられているので、亡くなった人の御霊が宿る神聖な依代として霊璽が存在しています。
位牌との違い
霊璽は位牌をシンプルにしたような外観であり、装飾的な要素は殆どありません。
位牌には黒檀や紫檀など素材の質感をみせる唐木位牌や、漆塗りの「塗り位牌」が一般的であり、最近では陶製やクリスタル素材など華美な位牌も登場しています。
一方、神道で使われる霊璽は一貫して質素であり、桧を素材としたものが殆どです。
塗りなどの装飾はない白木製ですが、墓石などにも共通する神道と仏教の宗教観の違いがよく現れています。
位牌はそのままの状態で仏壇に安置し、定期的に語りかけ拝むものとされていますが、霊璽は錦覆や白木覆、または鞘を被せることが一般的となっています。
例祭や中元祭の際には外されることもありますが、普段は御霊の宿る神聖なものとして目に触れないように扱います。
神道では、仏教の仏壇にあたる祖霊舎に霊璽を納めますが、霊璽の前には鏡を置くならわしがあり、神様との向き合いや悪霊をはね除ける意味があります。
覆には鏡の付いたものが多いようですが、鏡のないタイプであれば別に用意して霊璽の前に置きましょう。
霊璽に書き入れる霊号とは?
霊号は仏教の戒名にあたり、霊璽に書き入れられることになります。
諡(おくりな)や諡号(しごう)とも呼ばれますが、生前の名をそのまま使う点が戒名と異なっています。
名前の後には称名として、成人男性の場合は「大人(うし)」、成人女性であれば「刀自(とじ)」を付け、次に尊称である「命(みこと)」へと続けます。
霊号は霊璽の表に書き入れますが、裏には誕生日や享年、帰幽日を書くことになっています。
帰幽とは現世から死後の世界に向かうことを意味し、神道では死後の世界を幽世と呼んでいます。
霊璽を用意するタイミング
仏教の「通夜」にあたるものが神道では「遷霊祭」であり、本来は別の儀式となる「通夜祭」と同時に行われるケースが増えています。
遷霊祭は亡くなった人の御霊を霊璽に移す儀式であるため、遷霊祭までに霊璽を用意しなくてはなりません。
霊璽を遺族が用意することは少なく、神職に依頼して称名を書き込んでもらうため、家族が亡くなった場合には早めに連絡しておく必要があります。
仏教の場合、通夜の段階では仮位牌を用意し、四十九日法要を終えると本位牌に換えますが、霊璽は遷霊祭までに用意したものをそのまま祀るようになっています。
地域によっては五十日祭までを仮の霊璽とし、五十日祭の後に正式な霊璽を祀ることもあるようですが、この場合、仮の霊璽は神職へ依頼し神社にて焼納することになっています。
霊璽は祖霊舎の中央部に祀りますが、米や塩、酒や水、ロウソクなどのお供え物は毎日欠かさず取り替え、榊は月に2回(1日と15日)に取り替えるようにしましょう。
神棚との違いに気を付ける
祖霊舎と神棚には明確な違いがあるため、霊璽を祀る際には十分に注意しましょう。
仏壇や神棚には馴染みがあっても祖霊舎のことはよく分からないという人は多く、霊璽を祀る場所が神棚であると勘違いされているケースもあります。
生家が仏教であるなど、他宗教の家から嫁いだ場合は無理もありませんが、祖霊舎と神棚では祀られているものが違います。
神棚には神様が祀られていますが、祖霊舎に祀られるのは守護神となって一族や家を守るご先祖様です。
祖霊舎は「神徒壇」と呼ばれることもありますが、設置方法にも一定のルールがあり、場所や方角、祀り方などにも気を付けておく必要があります。
神道における霊璽は神の依り代であるため、直接目にすることは禁じられており、祖霊社の中に納めて内扉は締めておきましょう。
また、祖霊舎には方角も重要であり、吉祥となる南または東の方角に向け、神棚よりも低い位置に設置します。
霊璽の祀り方
祖霊社に納めた霊璽には毎日欠かさずお祀りを行います。
作法は神社や神棚と同様であり、二拝二拍手一拝によって拝礼します。順序は神棚が先となり、後で祖霊舎をお祀りします。
また、神道では死に対する考え方が仏教と異なり、死は穢れとされているため、神道の家で家族が亡くなった場合は「神棚封じ」を行います。
神棚封じとは、白紙を貼って神棚を封印することであり、祖霊社に霊璽を納める忌明けのタイミングで剥がします。
神道の忌明けとは五十日祭を終えた後であり、封印を解く(白紙を剥がす)際にはなるべく神様に穢れを近づけないように、縁の遠い人に行ってもらうのが一般的です。
霊璽の種類
仏式の位牌と同様に霊璽にも種類があり、祖霊舎の大きさや霊璽の数によって使い分けられています。
「一体型」と呼ばれる1人用の霊璽や、木主をまとめて祀る「繰り出し型」があるので、それぞれの違いを解説します。
一体型
基本的には亡くなった人ごとに一つの霊璽を用意しますが、このような霊璽は一体型と呼ばれています。
一体型の霊璽は位牌のような一枚板の木主(故人の霊号を記した白木の柱)であり、その霊璽のみお祀りする場合は一体型を使用しますが、他の霊璽が祀ってある場合でも、祖霊舎内にスペースがあれば一体型を置くことが多いです。
外観はシンプルな墓石状のデザインであり、台座の上には高さ14~15cm程度の木主が据えられています。
繰り出し型
仏式には位牌をまとめた「回出位牌(くりだしいはい)」と呼ばれるものがあり、箱型の位牌の中に10枚程度の礼板を納められるタイプとなっています。
神式にも「繰り出し型」の霊璽があり、10枚程度の木主をまとめて納めることが可能です。
お祀りするご先祖様が多くなった場合、または祖霊舎のスペースが足りなくなった場合に使われるため、最初から繰り出し型の霊璽を用意することは殆どありません。
一体型に比べて厚みがあり、20枚を収納できるタイプなどは横幅も倍になりますが、高さは然程変わりません。
霊璽の費用相場
一体型と繰り出し型によって霊璽の費用は異なりますが、一体型の場合5千円~1万円、繰り出し型は2万円前後が相場となっており、いずれも錦覆などを含めた金額です。
装飾性の高い位牌に比べると安い費用ですが、木主や覆いの材質・デザインによって価格差が出ます。
白木製の霊璽では桧がよく使われており、欅や檜葉など耐久性の高い素材や、栓の木が使われることもあります。
木目が美しく耐久性の高い素材は少々高くなりますが、霊璽そのものが大量の木材を必要としない小さなものなので、それほど大きな価格差にはならないです。
おわりに
神道や仏教など、宗教はその時代の情勢によってさまざまな影響を受けていますが、儒教をルーツとする霊璽や位牌は意味や役割りを変えないまま数百年受け継がれています。
霊璽には守護神となって一族を守るご先祖様が祀られているため、お供えを欠かさず、神棚とともに日々お参りすることが大事です。