認知症の疑いがある時はどうすればいい?診断の受け方や検査方法についてご紹介

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はじめに

日本人の高齢化に伴い、認知症予備軍ともいうべき軽度知的障害(MCI)の疑いのある高齢者が、近年急増しているという厚生労働省の調査結果があります。

MCIの推定患者数は全国で400万人以上に上り、65歳以上の4人に1人が発病の疑いがあり、これらの人々は将来的に認知症を発症するリスクが高いとされています。
そこで今回は認知症における早期診断の重要性のほか、個別の検査方法を10個取り上げ、詳しくご紹介していきます。

なぜ認知症の早期診断が大切なのか?

認知症の疑いがある時はどうすればいい?診断の受け方や検査方法についてご紹介
なぜ認知症の早期診断が大切なのでしょう?
それは早期診断ができれば早期治療に繋がり、認知症の初期段階から症状の悪化を遅らせることができるからです。
たとえば上でご紹介したMCIは、認知症と同じような脳の変化が生じて軽度の知的障害が発生すると考えられており、早期診断と早期治療が医学的な重要課題になっています。

また認知症を早期診断できれば認知症以外の疾患も早期に発見できるようになり、適切な治療をすれば完治できる可能性が高まります。
日常生活の面でも早期に認知症と診断された方が、速やかに適切な介護を受けられるようになり、患者や家族の負担を効果的に軽減できます。

そのため認知症の早期診断と早期治療は非常に重要なのです。

認知症は完治しないが対症療法は可能

残念ながら認知症は現代の医学では完治することができず、主な治療法は症状の進行を遅らせるための対症療法が中心に行われます。
近年は初期の認知症に効く薬が幾つかあるため、早期診断ができれば症状が軽いままで過ごす期間を長くできる可能性があります。

逆に早期診断をしないと治療を開始することができないため、認知症の初期段階から症状の進行が早くなることがあります。

認知症診断の受け方

認知症の疑いがある時はどうすればいい?診断の受け方や検査方法についてご紹介
認知症診断を受ける際にはまず、糖尿病や高血圧など生活習慣病や、そのほかの基礎疾患が無いかを事前に調べることから始めます。
具体的な流れとしては患者の既往歴や自覚症状などを医師が聞き取り、必要に応じて血液検査や感染症の検査が行われます。

その後は知能や記憶の衰えを確かめる神経心理学検査や、脳全体を輪切りの画像にするCTやMRI検査が行われ、認知症と判断された場合はより詳しい個別検査が実施されます。

認知症の検査方法

認知症の疑いがある時はどうすればいい?診断の受け方や検査方法についてご紹介
ここからは認知症の進行度や診断に必要な検査を10個取り上げ、個別の検査内容を詳しくご紹介します。

個別面談

個別面談は医師が患者との問診で認知機能の状態や、個別の病状などを探り出す検査方法です。
たとえば認知症の疑いのある患者は自覚症状を訴えないことが多く、同居の家族などに伴われ嫌々検査を受けるケースがあります。

このような患者は問診の内容によっては突然怒り出すことがあるため、個別面談は患者の様子を見ながら慎重に行われます。
担当医は患者の既往歴と主な自覚症状を聞き取りつつ、何気ない雑談を行い病状の進行度を確かめます。

一般的身体検査

一般的身体検査は主に、認知症以外の疾患があるかどうかを調べるために行われます。
たとえば脳の血管を脆くする高血圧では脳出血を、高血糖の影響で血液がドロドロになる糖尿病は脳梗塞を引き起こす恐れがあり、これらが原因になって脳の認知症状が大きく低下することがあります。

そのため血液検査や血圧測定のほか、心電図検査やX線撮影、感染症検査などの一般的な身体検査を入念に行い、別の疾患の有無を慎重に見極めます。

神経心理学検査

神経心理学検査は大きく分けて3つの種類があり、認知症の有無を客観的に判断する重要な検査方法です。
主な検査内容は医師と患者が簡単な会話をして記憶や知識レベルを確認し、設問を解いたり、図形を書くなどの作業を通して病状の進行を確かめます。

検査が終わった後で一定の評価基準を下回ると、認知症の疑いがあると診断され、さらに詳しい検査が実施されます。

改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)

HDS-Rは認知症の有無を確認するために作られた、設問形式の簡易的な認知機能テストです。
たとえば100から7を順番に引く、医師が言った数字を逆から言い直す、患者が見た複数の図柄を一定時間隠して再度言い直す、などの設問が設定されています。
HDS-Rでは医師との会話を患者が記憶できるかどうかも判断基準の1つになり、30点満点で20点以下の場合は認知症の疑い、21点以上は正常と診断されます。

ミニメンタルステート検査(MMSE)

MMSEはさまざまな認知機能を評価するための検査で、多くの医療機関が実施しています。
たとえば今日は何月何日か?ここは何県ですか?という質問で、時間や場所の見当識(基本的な状況把握能力)を確認し、特定の図形を正確に描けるかどうかで空間認知能力を評価します。

ほかにも計算能力や文字の理解力を始め、短期記憶や即時記憶などのテストも行い、認知機能の低下を幅広く検査します。
最終的に30点満点で27~30点が正常、22点~26点が軽度認知症の疑い、21点以下は認知症の疑いが強いと評価されます。

時計描画テスト

時計描画テストは白紙の用紙に時計の絵を描くテストで、患者が医師の指示を正確に理解して描くという処理を脳で行い、実際に手で実行できるかどうかを確認します。
実際の時計描画テストでは「時計の針が5時10分を指した時計の絵を描いてください」と口頭で指示を出し、時間の指定は患者ごとに変更します。

具体的な評価基準は1~12の数字が使われているか、位置と順序は正しいか、2本の針の長短が描かれているか、などの15項目から認知症の進行度を評価します。

脳画像検査

脳画像検査では主に脳腫瘍や脳梗塞の有無を始め、脳出血や頭部外傷、慢性硬膜下血腫などの有無を脳画像から診断します。
脳画像に異常があった場合は脳血管性認知症の確認や、アルツハイマー型認知症で顕著に見られる脳萎縮の有無を確認し、認知症の進行度を診断します。

CT・MRI

CTはX線を脳に当て脳内の組織を輪切りにして調べる検査方法で、MRIは強力な電磁石の磁力を利用して脳組織を分析します。
CTやMRIは一般の診療所でも受けられますが、総合病院では精度の高い機器が導入され、より専門的な診断を受けることができます。

これら検査では脳全体の萎縮度や記憶を司る海馬の萎縮のほか、脳梗塞や脳腫瘍、脳出血の状態を画像で確認し、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症の有無と進行度を具体的に診断します。

VSRAD

VSRAD(ブイエスラッド)は「早期アルツハイマー型認知症診断支援システム」とも呼ばれ、アルツハイマー型認知症の診断に特化した検査方法です。
この検査では高精度のMRIと専用の解析ソフトで脳全体の立体データを作り、専用の端末に取り込んで脳全体の萎縮度や、海馬の萎縮を数値化して診断します。

たとえば脳や海馬の萎縮度が0~1未満の場合は正常範囲、1以上は本記事の冒頭でご紹介した軽度の知的障害があるMCI、2以上はアルツハイマー型認知症の初期段階と診断されます。
アルツハイマー型認知症は国内の認知症患者全体の5割以上を占めており、患者本人のためにも早期診断と早期治療が重要です。

SPECT

SPECT(スペクト)検査は微量の放射線を出す検査薬を体内に投与し、脳や心臓の血流を可視化する検査方法です。
一般的な認知症を診断する場合は主に脳血流SPECT検査を行い、レビー小体型認知症は脳ドパミントランスポーターシンチグラフィを行います。

これらの検査ではCTやMRIで写らない脳神経症状や脳血流障害が可視化できるようになり、脳血流の低下などから認知症の種類や、各部位ごとの病状の進行度を細かく分析します。
認知症の種類の特定と病状の解明は認知症の確定診断に役立ち、早期治療が実現できます。

診断結果は一人で聞かないことが大切

認知症の疑いがある時はどうすればいい?診断の受け方や検査方法についてご紹介
認知症患者は病状の進行で不安定な精神状態になるため、診断結果は一人で聞かないことが大切です。
実際の検査では医師の質問に患者が突然怒り出して席を立ってしまうことも多く、このような事態を未然に防ぐためにも付添人の役目がとても重要です。

たとえば患者が怒り出したら付添人が横でなだめたり、優しく注意すれば面談や検査がスムーズに進みます。
また認知症と診断された場合も、患者一人では大きなショックを受ける恐れがありますが、付添人と一緒なら結果を受け入れ易くなるでしょう。

疑問を感じた時はセカンドオピニオンを受けよう

認知症のメカニズムはいまもはっきりとは解明されず、専門医でも分からないことが多い病気です。
そのため医療機関ごとに診断方法や治療方針に差異あり、急に病状が悪化すると患者や家族が疑問を持つことが多くなります。

このような場合は疑問を抱えたまま治療を続けるよりも、思い切ってセカンドオピニオンを利用し、別の医療機関を受診しましょう。
複数の医療機関の提案や意見を比較すると、それぞれの疑問点や別視点からの解決法が見えるようになり、患者や家族が十分に納得できる診断と治療に繋がることがあります。