相続時に使える税制優遇:賢く節税する7つのポイント

相続

人が亡くなると、故人の財産は相続人に引き継がれる。
しかし、その際に発生するのが相続税だ。
税金は避けられないものだが、相続税には様々な控除や特例が設けられており、これらを活用することで税負担を大幅に軽減できる可能性がある。
相続時に使える主な税制優遇策を7つに絞って解説する。
これらの知識があるかないかで、手元に残る財産の額は大きく変わることを覚えておこう。

1. 基礎控除:相続税がかかるかどうかの分水嶺

相続税は、すべての相続に課せられるわけではない。
まず、相続財産の総額から一定額を差し引ける「基礎控除」という制度がある。この基礎控除額を超えた部分に対してのみ、相続税が発生するのだ。

基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」という計算式で求められる。
例えば、法定相続人が配偶者と子供2人の合計3人であれば、基礎控除額は「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」となる。
相続財産がこの金額以下であれば、相続税はかからず、相続税の申告も不要となる。

この基礎控除は、相続税対策の最も基本的なスタートラインとなる。
故人の財産を把握し、基礎控除額と照らし合わせることで、相続税の申告が必要かどうか、そしてどれくらいの規模で対策を講じる必要があるかの目安が立つだろう。

2. 配偶者の税額軽減:夫婦間の相続に最強の優遇策

配偶者に対する相続税の優遇は、非常に手厚い。
「配偶者の税額軽減」という特例を使えば、配偶者が相続する財産のうち、「1億6,000万円」または「法定相続分」のいずれか多い額までは、相続税がかからない。

これは非常に強力な制度だ。
例えば、相続財産が2億円あっても、その全額を配偶者が相続すれば、相続税はゼロになる可能性が高い。
ただし、この特例は相続税の申告をすることが適用条件だ。
基礎控除額を超えないからといって申告を怠ると、この特例は適用されないため注意が必要だ。

この特例は、特に配偶者に多くの財産を残したいと考える場合に有効だ。
ただし、将来的に配偶者が亡くなった際に、その子供たちが二次相続で高い税金を支払う可能性があるため、一次相続と二次相続の両方を考慮した上での計画が重要となる。

3. 小規模宅地等の特例:自宅や事業用地を守る

「小規模宅地等の特例」は、被相続人が住んでいた自宅や、事業を行っていた土地などを相続する場合に、その土地の評価額を最大80%減額できるという非常に大きな特例だ。

例えば、評価額5,000万円の自宅があったとして、この特例が適用されれば、評価額が1,000万円まで下がる可能性がある。
これにより、相続税の負担を大幅に軽減できるのだ。
対象となる土地には、居住用宅地(330平方メートルまで)、事業用宅地(400平方メートルまで)、特定同族会社事業用宅地などがある。

この特例の適用には、いくつかの細かい要件がある。
例えば、自宅を相続する人が、故人と同居していたり、持ち家を持たない親族であったりする必要がある。
また、事業用宅地の場合は、その事業を継続するなどの条件がある。
複雑なため、専門家と相談しながら適用要件を確認することが重要だ。

4. 生命保険の非課税枠:確実に手元に残せる財産

生命保険金は、税法上「みなし相続財産」として相続税の課税対象となる。
しかし、生命保険には「非課税枠」が設けられており、この枠内で受け取った保険金には相続税がかからない。

非課税枠の計算式は、「500万円×法定相続人の数」だ。
例えば、法定相続人が3人いれば、「500万円×3人=1,500万円」までが非課税となる。
この枠を有効活用するためには、生前に保険金の受取人を適切に設定しておくことが重要だ。

生命保険は、現金として手元に残せるため、相続税の納税資金に充てることもできる。
また、遺言書がなくても受取人に直接支払われるため、遺産分割協議の対象とならず、確実に特定の人物に財産を残したい場合に非常に有効な手段となる。

5. 死亡退職金の非課税枠:保険と同様のメリット

死亡退職金も、生命保険金と同様に「みなし相続財産」として相続税の課税対象となるが、同じく非課税枠が設けられている。

非課税枠の計算式は、生命保険と同じく「500万円×法定相続人の数」だ。
生命保険と合わせて、この非課税枠を最大限に活用することで、相続財産を圧縮できる。

ただし、死亡退職金は、勤務先の規定によって支払われるかどうか、またその金額が決まる。
故人が会社員だった場合、死亡退職金が支払われるか、そしてその金額がどの程度になるかを確認しておくことが重要だ。

6. 相続時精算課税制度:贈与と相続の税金を一体化

「相続時精算課税制度」は、生前に贈与を受けた財産を、相続発生時に相続財産に加算して相続税を計算する制度だ。
これは、年間110万円までの基礎控除がある通常の贈与税とは全く異なる仕組みを持つ。

この制度を利用すると、2,500万円までの贈与であれば贈与税が非課税となる。
2,500万円を超えた部分については一律20%の贈与税がかかるが、相続発生時に精算され、既に支払った贈与税は相続税から差し引かれる。

この制度は、特に若い世代に早めに財産を移転させたい場合や、将来的に値上がりが予想される財産を贈与したい場合に有効だ。
ただし、一度この制度を選択すると、その後の贈与には暦年贈与の基礎控除が使えなくなるため、慎重な検討が必要だ。

7. 葬儀費用の控除:純粋な相続財産を減らす

相続税を計算する際、相続財産から債務や葬儀費用を差し引くことができる。
葬儀費用は、故人が亡くなった際に発生するものであり、これを控除することで、純粋な相続財産額を減らし、相続税の負担を軽減できる。

控除できる葬儀費用には、葬儀社への支払い、お布施、火葬費用、埋葬費用などが含まれる。
ただし、香典返しや墓地の購入費用、法要の費用などは控除の対象外となるため注意が必要だ。

葬儀費用を控除するには、領収書などの証拠書類が必要となる。
葬儀に関する費用は、後から確認するのが難しい場合もあるため、領収書はきちんと保管しておくことが重要だ。

まとめ:知識と計画で相続税を賢く抑える

相続税の税制優遇策は多岐にわたり、それぞれに複雑な要件が設定されている。
今回紹介した7つのポイントは、その中でも特に利用頻度が高く、効果の大きいものばかりだ。

これらの優遇策を最大限に活用するためには、故人が元気なうちから相続対策を始めることが最も重要である。
自身の財産状況を把握し、家族構成や将来のライフプランを考慮しながら、どの制度をどのように利用するかを計画的に検討する必要がある。

相続税は、専門的な知識がなければ正確に計算し、適切な申告を行うことは難しい。
税理士などの専門家と相談し、自身の状況に合った最適な相続対策を講じることが、結果として賢い節税につながるだろう。
相続は避けて通れないが、その負担を軽減することは可能だ。知識と計画を持って、大切な財産を次世代へ引き継ごう。

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