はじめに
生前整理というと、年を取ってから身の回りの物を処分することだと思われることがあります。
しかし、生前整理は単なる片付けではありません。
自分が元気なうちに、家の中の物だけでなく、預貯金や保険、重要書類、契約、スマートフォンやパソコンの情報などを整理しておくことも生前整理に含まれます。
自分にとって必要な物や大切な物を確認し、これからの生活を暮らしやすくすると同時に、将来家族が困らないようにしておくことが目的です。
何歳から始めなければならないという決まりはありません。
むしろ、体力や判断力が十分にあるうちから少しずつ始める方が無理なく進められます。
この記事では、生前整理とは何をすることなのか、何から始めればよいのか、具体的な進め方や家族と取り組むときの注意点について解説します。
生前整理とは
生前整理とは、自分が元気なうちに身の回りの物や財産、契約、情報などを整理しておくことです。
亡くなった後に家族が行う遺品整理とは異なり、本人が自分の意思で「残す物」「手放す物」「家族に伝えておくこと」を決められる点に大きな意味があります。
生前整理という言葉から、家の中の物を大量に捨てることを想像する人もいるでしょう。
しかし、物を減らすことだけが目的ではありません。
どこに何があるのかを把握し、大切な物を分かるようにしておくことも立派な生前整理です。
遺品整理との違い
遺品整理は、本人が亡くなった後に家族などが故人の持ち物を整理することです。
残された家族は、何を処分してよいのか、どれが大切な物なのかを本人に確認することができません。
そのため、判断に迷う物が多いほど遺品整理の負担は大きくなります。
一方、生前整理では本人自身が判断できます。
「これは子どもに残したい」
「これは処分して構わない」
「この書類は大切なので保管してほしい」
といった意思を家族へ伝えることができます。
断捨離との違い
断捨離は、不要な物を手放して生活空間を整えるという考え方です。
生前整理にも物を減らす作業は含まれますが、それだけではありません。
預貯金や保険などの財産を把握したり、各種契約を確認したり、家族に必要な情報を伝えたりすることまで含めて考えます。
つまり、断捨離は生前整理を進める方法の一つと考えると分かりやすいでしょう。
生前整理は何のためにする?
生前整理というと「亡くなった後のため」という印象が強いかもしれません。
しかし、実際には現在の自分の生活にも多くのメリットがあります。
家族の負担を減らす
親が亡くなった後、家族は葬儀や行政手続き、相続などさまざまなことに対応しなければなりません。
そこへ大量の家財道具や書類の整理まで重なると、家族の負担はさらに大きくなります。
特に判断に困るのが、本人にとって大切だった物です。
古い写真、手紙、趣味の品、記念品などは、金銭的な価値がなくても本人にとっては特別な意味を持つことがあります。
本人が元気なうちに整理し、残してほしい物を伝えておけば、家族が「捨ててしまってよいのだろうか」と悩むことを減らせます。
今の生活が暮らしやすくなる
生前整理は将来のためだけではありません。
不要な物を減らせば、家の中がすっきりして必要な物を探しやすくなります。
床や通路に物が多い家庭では、片付けることで転倒を防ぐことにもつながります。
長年使っていない物を整理したことで、収納スペースに余裕ができ、日常生活が快適になることもあります。
「亡くなる準備」ではなく、「これからを暮らしやすくするための整理」と考えると取り組みやすいでしょう。
財産や契約を把握できる
長く生活していると、銀行口座、生命保険、クレジットカード、携帯電話、インターネットサービスなど、さまざまな契約が増えていきます。
本人でさえ、すべてを正確に把握できていないことがあります。
生前整理を機会に確認すれば、使っていない口座や不要な契約が見つかることもあります。
また、どの金融機関に口座があるのか、保険に加入しているのかなどを整理しておけば、将来家族が財産を探す負担も減らせます。
生前整理では何を整理する?
生前整理の対象は、家の中の物だけではありません。
大きく分けると、物、財産、契約、重要書類、デジタル情報などがあります。
すべてを一度に整理する必要はありません。
できるところから少しずつ進めていきましょう。

家の中の物

まず取り掛かりやすいのが、日用品や衣類などの身の回りの物です。
長期間使っていない衣類、壊れた家電、使う予定のない食器、不要な家具などを確認します。
迷う物まで無理に処分する必要はありません。
「必要」「不要」「保留」の3つに分けると判断しやすくなります。
処分する物の量が多い場合は、一度に全部やろうとせず、引き出し一段、棚一つ、部屋一室というように範囲を区切ると続けやすくなります。
写真や思い出の品
写真やアルバム、手紙、子どもの作品、旅行の記念品などは、処分するかどうかの判断に時間がかかります。
そのため、生前整理の最初に手を付ける必要はありません。
まず判断しやすい物を整理し、作業に慣れてから取り掛かってもよいでしょう。
写真については、すべてを残すのではなく、特に思い出のある写真を選んだり、デジタル化して保存したりする方法もあります。
家族に残したい写真があれば、誰が写っているのか、いつごろの写真なのかを分かるようにしておくと、後から見た家族にも意味が伝わります。
写真やアルバムが大量にある場合は、すべてを一度に整理する必要はありません。
残す写真の選び方やデジタル化する方法については、終活でアルバム整理はどうする?写真の残し方・捨て方とデジタル化で詳しく解説しています。
預貯金・保険・不動産などの財産
生前整理では、自分がどのような財産を持っているのかを確認することも重要です。
例えば、
・銀行や信用金庫などの預貯金
・生命保険や医療保険
・株式や投資信託などの金融商品
・土地や建物などの不動産
・自動車
・貸金庫
などがあります。
ここで大切なのは、生前整理の段階ではまず「何を持っているのか」を把握することです。
誰にどの財産を残すのかという問題は、遺言書や相続の検討につながります。
財産一覧を作る場合でも、暗証番号やパスワードまで同じ紙に書いて保管する必要はありません。
重要書類
家族が将来探す可能性のある書類も整理しておきましょう。
例えば、
・不動産関係の書類
・保険証券
・年金関係の書類
・銀行や証券会社の書類
・税金関係の書類
・各種契約書
などがあります。
不要な書類を処分すると同時に、残しておく書類は保管場所をまとめておくと分かりやすくなります。
重要なのは「すべてを一か所に入れること」よりも、「どこに保管してあるか家族が分かること」です。
契約やサービス
現在利用している契約も確認しておきましょう。
携帯電話、インターネット、動画配信、音楽配信、新聞、定期購入など、毎月料金を支払っているサービスが増えている人もいます。
ほとんど使っていないサービスがあれば、生前整理を機会に解約することもできます。
契約を一覧にしておけば、将来家族が解約手続きをするときにも役立ちます。
スマートフォンやパソコンなどのデジタル情報
現在の生前整理では、デジタル情報も無視できません。
スマートフォンやパソコンには、写真、メール、SNS、ネット銀行、ネット証券、通販サイト、各種サブスクリプションなど多くの情報が保存されています。
本人しか存在を知らないサービスもあるでしょう。
まずは、自分がどのようなサービスを利用しているのかを整理しておくことが大切です。
ただし、IDやパスワードを誰でも見られる場所にまとめて置くと、かえって危険になる場合があります。
情報の一覧と、ログインに必要な秘密情報の管理は分けて考えましょう。
スマートフォンやパソコン、SNS、ネット銀行などの整理方法については、デジタル終活とは?やること・進め方・デジタル遺品の整理方法で詳しく解説しています。
連絡先や人間関係
家族が知らない友人や知人がいる場合は、連絡先を整理しておくことも役立ちます。
長年の友人、以前の勤務先の仲間、趣味の仲間など、本人にとって大切でも家族が知らない人は珍しくありません。
「もしものときにはこの人に知らせてほしい」という相手がいるなら、名前と連絡先、本人との関係が分かるようにしておくとよいでしょう。
生前整理はいつから始める?
生前整理を始める年齢に決まりはありません。
「70歳になったら」「定年退職したら」と決める必要もありません。
大切なのは、自分で判断し、行動できるうちに始めることです。
家一軒分の物を整理するには想像以上に体力を使います。
高齢になってから大量の家具や荷物を動かすのは大変です。
また、重要書類や契約、財産を整理するには判断力も必要です。
そのため、「まだ生前整理をする年齢ではない」と考えるより、気になったときが始めどきと考える方がよいでしょう。
子どもが独立したとき、退職したとき、引っ越しやリフォームをするときなども始めるきっかけになります。
生前整理の進め方
生前整理で失敗しやすいのは、最初から家全体を片付けようとすることです。
終わりが見えず、途中で嫌になってしまうことがあります。
少しずつ範囲を広げていく方が続けやすくなります。

小さな場所から始める
最初は、机の引き出し一つや洗面所の棚など、小さな場所から始めてみましょう。
短時間で整理できる場所なら達成感を得やすく、次の作業にも取り掛かりやすくなります。
いきなり納戸や物置など、物が大量にある場所から始める必要はありません。
必要・不要・保留に分ける
物を整理するときは、
・今も使っている物
・今後使う予定のある物
・思い出として残したい物
・不要な物
を考えます。
すぐに判断できない場合は「保留」にして構いません。
その場で無理に結論を出そうとすると、生前整理そのものが負担になってしまいます。
保留箱などを作り、半年後や1年後にもう一度確認する方法もあります。
思い出の品は後回しでもよい
写真、手紙、記念品などは、一つ一つ見ていると思い出がよみがえり、作業が進まなくなりがちです。
思い出の品から始めるのではなく、衣類や日用品など判断しやすい物から進めた方が効率的です。
思い出の品は、時間に余裕がある日にゆっくり整理しても構いません。
財産や重要書類は一覧にする
預貯金や保険、契約などは一覧にすると全体を把握しやすくなります。
銀行名や保険会社名など、家族が存在を確認できる程度の情報をまとめておくだけでも役立ちます。
さらに、重要書類をどこに保管しているのかも記録しておきましょう。
本人しか知らない場所に保管してしまうと、せっかく整理しても家族が見つけられない可能性があります。
預貯金や保険、重要書類などを整理したら、保管場所や必要な情報をエンディングノートにまとめておく方法もあります。
エンディングノートとは?何を書く?書き方・遺言書との違いと家族で作るメリットもあわせて参考にしてください。
一度で終わらせず定期的に見直す
生前整理は、一度行えば終わりというものではありません。
生活していれば物は増えますし、銀行口座や保険、契約内容も変わります。
数年に一度、あるいは生活に大きな変化があったときに見直しましょう。
少しずつ続ける方が、後になって大量の物や情報を一度に整理するより負担が少なくなります。
家族と一緒に生前整理するときの注意点
親の家に物が多いと、子どもは「早く捨ててほしい」と思うことがあります。
しかし、家族にとって不要に見える物でも、本人には大切な思い出があるかもしれません。
生前整理を家族で進める場合は、本人の気持ちを尊重することが大切です。
本人の物を勝手に捨てない
家族だからといって、本人の許可なく物を処分するのは避けましょう。
「こんな物はもう使わないだろう」と思っても、本人が残したい理由があるかもしれません。
捨てるかどうかは、できる限り本人に確認します。
本人自身も、家族がすべて処分してくれると考えるのではなく、自分で判断できるうちに少しずつ整理しておくことが大切です。
残してほしい物は伝えておく
家族に残したい物がある場合は、本人から伝えておきましょう。
形見として渡したい時計やアクセサリー、家族の歴史が分かる写真、手紙などがあれば、誰に残したいのかを話しておくと分かりやすくなります。
ただし、財産的な価値がある物について「誰に相続させるか」を確実に決めたい場合は、生前整理だけでなく遺言書など別の方法を検討する必要があります。
子どもにすべて任せない
「自分が亡くなったら、子どもが片付けてくれるだろう」と考えることもできます。
しかし、家一軒分の物を整理するには大きな時間と労力がかかります。
遠方に住んでいれば、仕事を休んで何度も実家へ通わなければならないこともあります。
さらに、家族には葬儀や相続などの手続きもあります。
すべてを完璧に整理する必要はありませんが、自分でできることを少しずつ済ませておくことは、残される家族への大きな配慮になります。
自分だけで生前整理するのが難しい場合
物が多すぎたり、大型家具や家電を処分したりする場合は、自分や家族だけでは対応が難しいこともあります。
そのような場合は、不用品回収や片付けなどを行う専門業者を利用する方法があります。
ただし、「生前整理」という名称のサービスでも、作業内容は業者によって異なります。
不要品の搬出だけを行う場合もあれば、仕分け、買取、清掃などをまとめて行う場合もあります。
依頼するときは、どこまで作業してもらえるのかを確認し、複数の業者から見積もりを取って比較すると安心です。
また、重要書類、現金、通帳、印鑑、貴金属などは、業者へ依頼する前に自分や家族で確認しておきましょう。
まとめ
生前整理を始めると、「もっと捨てなければならない」と考えてしまう人もいます。
しかし、家の中を空にすることが生前整理の目的ではありません。
今後も使う物や、自分にとって大切な物まで無理に手放す必要はありません。
必要な物が分かり、不要な物を少し減らし、財産や契約の状況を把握し、家族が困らない程度に情報を整理できれば、それだけでも大きな意味があります。
また、年齢や生活環境が変われば、必要な物も変わります。
一度ですべて終わらせようとせず、これからの生活を楽しみながら少しずつ見直していきましょう。
生前整理は、亡くなった後のためだけに行うものではありません。
生前整理だけでなく、エンディングノート、介護・医療、葬儀、お墓、相続など終活全体で何を準備すればよいのかは、終活とは?何をする?いつから始める?やることを順番に解説でまとめています。
自分自身がこれからを暮らしやすくし、同時に家族の将来の負担を減らすための終活の一つです。



