財産処理の基本
財産の処理方法はいくつか存在しますが、一般的に考えられる方法に「相続」と「贈与」があります。
これらは跡継ぎを中心とした相続権のある人に財産や権利を譲り渡すもので、それぞれに相続税や贈与税などの税金を含め、細かい法的な決まりが存在します。こういった相続や贈与が行われずに残ってしまった財産はどう処理されるのか、基本的な流れやルールを紹介します。
跡継ぎの選定
財産を受け継ぐ人は、被相続者である故人の配偶者、子や孫、親や祖父母、兄弟姉妹が候補で、兄弟姉妹が亡くなっている場合は、その子どもである甥や姪が対象者になります。これらの、財産を相続できる関係の人を「法定相続人」と呼びます。
法定相続人には、相続順位や養子の可否などの細かいルールが存在します。
跡継ぎがいない場合
法定相続人が誰もいない状態を「相続人不存在」といい、こういった状態になるには2つのパターンがあります。
1つは、法定相続人になれる立場の人が全員死去するなどして存在しない場合で、孤立状態の人がなりやすいパターンです。
2つ目は、立場上は法定相続人になれる人がいても、その全員が相続放棄をしたり、事情があって欠格や排除となってしまった場合です。こういった事情があって相続人不存在になってしまった財産は、家庭裁判所が選定する「相続財産管理人」という人の管理下に置かれます。基本的に、その地域の弁護士が任に当たることなります。
手続き後、最終的には国庫に
相続が可能な人を一定期間探しても見つからなかった場合、相続人不存在の財産は、国庫に帰属して手続きが完了となります。この国庫に帰属するまでの様々な手続きを行うのが、相続財産管理人です。
相続人不存在の現状
近年、跡継ぎがいない財産である相続人不存在は、社会的な問題になりつつあります。相続人不存在にはどういった問題があるのか、どのような理由で問題が起きているのか、相続人不存在の現状について説明します。
生涯未婚率の増加が相続人不在の増加要因
法定相続人は、主に被相続者の子どもがなることが最も理想的で、兄弟姉妹など血縁者に相続されたとしても、最終的に次の代に相続ができなければ、時間と共に法定相続人不在の状況に陥ってしまいます。
日本では、約5人に1人が生涯未婚や子どもがいない状況といわれているため、単純に考えても、法定相続人がそれだけ減ってきているということです。そのため、相続人がいない人と財産が増えつつあります。
相続人がいるのに不明という例も増加中
大都市への人口集中を背景に、多くの人が生まれ故郷から遠く離れた場所で生活するようになり、血縁者との連絡やつながり意識が低下しています。
こうした事情から、法定相続人となれる人がいるにもかかわらず、当事者たちがそれを知らないということも増えてきているため、一旦相続人不在という形になり、相続財産管理人の活動によって、やっと法定相続人が見つかる例も増えてきています。
相続が不可能な場合は、遺贈や寄付も可能
たとえ長期間にわたって関係のあった仕事仲間や世話人であっても、法定相続人になれる立場でない場合は、相続することは不可能です。しかし、感謝の気持ちとしての遺贈や、公共団体への寄付という形で譲り渡すことは可能です。
この場合、遺言書や生前契約など正式な手続きが必要なので、誰にでもすぐに渡せるような簡単なものではないということは知っておきましょう。
今後の相続はどうなる?
特に法定相続人がいないため、相続先がない財産が増える今、これから日本で行われる相続はどうなっていくのかを考えてみましょう。
相続人不在は増えていく
跡継ぎや法定相続人がいない状態、いわゆる相続人不在の状態となる人は、これから先、もっと増えていくことが予想されています。子や孫といった次の世代に継承しない限り、最終的には法定相続人が途絶えることになるため、少子化は直接相続人不在の理由となるからです。
今の日本は少子高齢化が進んでいるため、そもそも子どもがいない老人も増えつつありますし、生涯未婚率が2割近くまで上がってきていることから、今後ますます少子化が進むことも予想されています。
遺言書を書く人が増えるかどうかが鍵
法定相続人がいない場合、遺贈や寄付という形で血縁関係のない人に財産を譲り渡すことが可能ですが、相続は、被相続人が亡くなった時点から始まるという特性上、生前にその旨を表明した遺言書や契約などが存在しない場合、勝手に遺贈を行ったりすることは不可能です。
そのため、法定相続人がいない人が増えたとしても、しっかりと遺言書を残したりしておく人が増えれば、跡継ぎがいないため最終的に国庫に帰属する財産が減ることにつながります。
法改正も状況を大きく変化させる要因の一つ
ここ数年でも相続税に関する法改正が行われたように、相続や贈与に関する法律は変化し続けています。相続人不在が増えていくと考えられる今後、こういった変化が影響を与える可能性は否定できません。
少子化対策など、法定相続人が増える理由にもなる部分からも、国や自治体のアプローチは重要な役割を担っています。
跡継ぎがいない場合の財産処理の準備
跡継ぎがいない、もしくは見つからない場合、財産処理でできる準備はいくつかあります。財産処理の準備を怠ってしまうと、最終的に国庫に帰属してしまうだけでなく、その間にも相続財産管理人をはじめ、多くの人に手間をかけさせてしまうことにもつながります。
自分自身の財産をきちんと処理するためにも、できることはしっかりと準備するのが望ましいでしょう。
遺言書の作成
財産処理においてとても重要なのは、本人の意思を表明することです。
意思表明が不十分だと、相続人がいても、相続順位や割合など様々な部分で話し合いをしなければいけなくなり、多くの場合、法廷で決めることになります。亡くなってから本人の意思を聞き出すことは不可能ですので、生前に書き留めておいたり、誰かに伝えておく必要があります。
加えて、相続の意思決定は、本人が自分の正確な判断の下に行わなければいけないという決まりもあるため、認知症などが進み、意思決定能力がなくなってしまってからでは手遅れです。
健康で意思決定能力があるうちに意思を表明し、それを残しておくための遺言書を作成しましょう。正式な遺言書を作成するには法的な手続きが必要になるため、弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。
贈与や寄付などの方法も
跡継ぎが見つからない場合でも、正式な手続きを踏むことで、法定相続人以外の人に財産を譲り渡す方法はいくつか存在します。
もし渡すような間柄の個人がいない場合には、地方公共団体やNPO法人に寄付するというのも一つの手です。財産を譲り渡す相手を探すための活動というのも、財産処理の準備として頭に入れておくのは有効でしょう。
終活で財産処理を考えている人へ
終活で財産処理を考えている場合、最も優先して考えるべきポイントは「遺言書の作成」です。特に跡継ぎがいない場合には、なおさら自分の意思が重要です。遺言書の作り方や、注意するべきポイント、遺言書に書くべき内容などを紹介します。
遺言書の種類
遺言は正確には「遺言書」(いごんしょ)といい、3種類あります。それぞれ作り方にルールがあり、注意しないといけない点も多いので、よく調べて、可能であれば弁護士のような専門家のチェックを受けるようにしましょう。
直筆証書遺言
直筆証書遺言は、名前からわかるように自分の手で書く遺言書のことで、紙や筆記用具の指定はないため、いつでも書くことが可能です。しかし、正式に効力のある遺言書にするには、「書く内容」や「書き方」に決まりがあるので、専門家の指導を受けながら書き上げることを勧めます。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証役場に本人が行き、公証人に作ってもらう遺言書のことです。内容は口述でできる上に、公証人が作るため、効力が確実に発揮されることと、原本を公証役場で保管してもらえることによる3つが特長です。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、本人が直筆もしくはパソコンなどで作成した遺言書を、公証役場で公証人のチェックを受けて作成するものです。ただし、公証人は内容の確認まで行わず、受付を証明するだけですので、直筆証書遺言と同様、書式に誤りがある場合には効力を発揮しません。
こういった注意点があるため、名前からわかるように「秘密」を重視して遺言書を作成する必要がある場合でない限り、公証役場に行く労力を考えれば、公正証書遺言を作った方が賢明でしょう。
跡継ぎがいない方の財産処理の3カ条
跡継ぎがいない方が財産処理をする場合、以下の3つの点によく注意するといいでしょう。
最後に、跡継ぎがいない場合の財産の行方、遺贈や寄付といった財産の譲り方、遺言書の重要性について、要点をまとめます。
手続き後、最終的には国庫に帰属する
現時点で跡継ぎや法定相続人が見つからない場合でも、財産処理が始まったら相続財産管理人が管理と手続きを行います。相続財産管理人が一定期間、相続できる人を捜索しても見つからなかった場合、手続きを行って最終的には国庫に帰属することになります。
この一連の流れを知っておくことは重要です。
遺贈や寄付も可能
相続は、法定相続人を筆頭に、法的に相続できる人とできない人が定められています。そのため、どんなに親しい人であっても、相続できない人であれば相続は不可能です。そういった人や法人であっても、正式な手続きや意思表明をすることで、遺贈や寄付という形で財産を譲り渡すことは可能です。
もし相続できる相手がいなかったとしても、譲り渡したい人がいる場合には遺贈や寄付の方法を相談してみるといいでしょう。
遺言書がとても重要
財産処理は、跡継ぎの有無に関係なく、遺言書の重要度がとても高いです。跡継ぎがいない、もしくは見つかっていないというときには、ほぼすべての意思決定を自分で示す必要があるため、遺言書の必要性はさらに高いものとなります。
遺贈や寄付を考えていたとしても、それを証明する手続きをしていなかった場合には不可能になるため、生前に決めごとを作った場合には、遺言書も合わせて正確に作るようにしましょう。遺言書には、本人の意思決定能力が不可欠なので、元気なうちに作るように心がけましょう。