はじめに
季節を問わず、温かいお風呂に入ると、からだが心底リラックスするものです。しかし、急な温度差で血圧が変動し、体調不良を起こす「ヒートショック」には注意が必要です。ヒートショックから身を守るには、どんな対策が必要なのでしょうか? ヒートショックが起こる仕組みや、起こりやすい人の特徴などについて、わかりやすく説明します。
ヒートショックとは
大きな気温の変化によって血圧が急激に上下し、心臓や血管などの疾患が起こることを「ヒートショック」と呼びます。
冬場における浴槽でのヒートショックが代表的なものです。
脳内出血や大動脈解離、心筋梗塞、脳梗塞、意識喪失など、致命的な症状が起こる場合もあるので、油断できない現象といえるでしょう。
高齢者に多いのが特徴
「80代の父親が風呂から上がってこないので、心配して様子を見に行ったら、浴槽内で顔を水没していた」。冬場になると、こうした通報が消防に相次ぐそうです。
消費者庁によると、2011年以降、自宅などの浴槽内で溺死した高齢者は4000~5000人で推移しています。
2019年のデータによれば、交通事故による死亡者が約3,000人であったのに対して、ヒートショックに関連した死亡者数は4,900人に上っています。特に65歳以上の高齢者に多い点が特徴です。
ヒートショックはなぜ起こる?
暖かい居室から風呂場の寒い脱衣所に移動して衣服を脱ぐと、血管が収縮して血圧が上がります。そのあと、急に湯に浸かると、血管が広がり、血圧は急低下。再び寒い脱衣所に出ると、血圧が上がります。
こうした血圧の大きな変化がからだに異常をもたらすのです。
ヒートショックが起こりやすい人の特徴について
ヒートショックになりやすい人の特徴や習慣などについて次にご紹介します。もし自分が当てはまるようでしたら、注意して入浴するようにしましょう。
65歳以上の人
前述しましたように、65歳以上の高齢者は、ヒートショックを起こすリスクが高まります。ヒートショックによる入浴関連死は、65歳以上が8割以上を占めています。特に、75歳以上の後期高齢者が多く、年々増加しています。
高齢者は、若年層に比べて暑さや寒さに対する感覚が鈍化していて、気温の急激な変化に対応することができず、本人が気づかないままに重篤な症状に陥ることが多いのです。
家族は注意深く見守るようにしましょう。
狭心症・心筋梗塞・脳出血などの病歴がある人
ヒートショックによる死亡事故は、狭心症や心筋梗塞によってもたらされるケースが多いです。狭心症や心筋梗塞、脳出血などの病歴がある人は注意しましょう。
動脈硬化を予防するためには、食生活の改善が求められます。塩分の摂取は控えめにし、動物性脂肪はなるべく避ける、野菜や海藻からミネラルや食物繊維を摂取するなどの点に注意して、バランスの良い食事を心がけましょう。
糖尿病・高血圧・肥満の人
糖尿病や高血圧の持病がある人や肥満気味の人は、動脈硬化を引き起こすリスクがあるので、ヒートショックと関連が深いです。
長年糖尿病を患っている人は血圧が不安定です。浴槽から立ち上がった際に血圧が急降下し、ヒートショックで倒れるケースがあるので、注意が必要です。高血圧の人もも血圧が変動しやすく、ヒートショックを起こすリスクが高いです。
動脈硬化・不整脈・睡眠時無呼吸症候群の症状がある人
動脈硬化や不整脈、睡眠時無呼吸症候群などの症状に悩まされている人もヒートショックのリスクがあります。血圧の上昇による心筋梗塞などを引き起こすことが多いです。
浴室やトイレに暖房設備がない人
ヒートショックは、暖かい室内から寒い空間に移動する際に引き起こされます。暖かい部屋から暖房がないトイレなどに移動したり、寒い脱衣所で着替えたあとに熱い湯船に浸かったりするなど、家の中の寒暖差対策が不十分な場合は注意しなければなりません。
浴室やトイレに暖房設備がなくて、リビングルームとの温度差が大きい場合は何らかの対策を講じるようにしましょう。
熱い風呂を好む人
熱い湯(42度以上)が好きな人もいらっしゃるでしょうが、ヒートショックの対策上は好ましくありません。
熱お湯に浸かると血圧が一気に上がり、数分後には急降下するので、血管に大きな負担がかかります。血圧が下がりすぎると、意識障害を起こす場合もあるので、とても危険です。風呂内でボーっとしてしまうことがある場合、意識障害やのぼせを起こしている可能性があるので、要注意です。
長風呂しがちな人
湯に浸かる時間は、10~15分程度が良いとされています。
長時間湯に浸かっていると、血圧が下がるだけでなく、発汗を促し、血液が濃くなってしまいます。心筋梗塞や脳梗塞などの原因にもなるので、対策として入浴前に水を1杯飲むようにしましょう。また、長風呂が好きな人は、湯の温度を低めにするなど工夫をしましょう。
飲酒後にお風呂に入る習慣がある人
飲酒するとアルコールの効果で血圧が下がりますが、入浴によって血管が拡張して、さらに血圧が下がります。飲酒後の入浴は非常に危険な状態と言えます。
入浴前の飲酒はできるだけ控えて、血管に負担をかけないようにすることが大切です。
薬を飲んだ直後や深夜の入浴も避けたほうが良いでしょう。
セルフチェックシートで確認を
ヒートショックのセルフチェックシートはいくつかありますが、一例として、愛媛県西条市消防署の「ヒートショック危険度簡易チェックシート」をご紹介します。
以下の10項目で当てはまるものを数えて、自身がヒートショックにかかりやすいかどうかがチェックできます。
目安としては、5個以上当てはまった場合は「ヒートショック予備軍」になるので、生活を改善する必要があります。
- ①メタボ、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症、心臓・肺や気管が悪いなどと言われたことがある
- ②自宅の浴室には暖房設備がない
- ③自宅の脱衣室に暖房設備がない
- ④一番風呂に入ることが多いほうだ
- ⑤42度以上の熱い風呂が大好きだ
- ⑥飲酒後に入浴することがある
- ⑦浴槽に入る前のかけ湯をしない、または簡単にすませるほうだ
- ⑧シャワーやかけ湯は肩や体の中心からかける
- ⑨入浴前に水やお茶など水分をとらない
- ⑩ひとり暮らしである、または家族に何も言わずにお風呂に入る
ヒートショックの対策は?
ヒートショックを起こさないためにはどうすれば良いのでしょうか。入浴前、入浴中、入浴後の3段階の対策をご紹介します。
入浴前
入浴前は、浴室や脱衣所を十分暖めます。居室の扉を開けて、浴室までの廊下に暖気を流したり、脱衣所を暖房器具で温めたりして、寒暖差を小さくすることです。
浴室の扉を開けて、風呂やシャワーの湯気で暖めることも有効です。シャワーは高い位置から流すと湯気で暖まります。
入浴前に水分を補給し、飲酒後や食前食後の30分は入浴しないようにします。
入浴前に「今から入るよ」と、家族に伝えることも大切です。家族は入浴後10~15分を目安に大丈夫か声をかけることができます。ひとり暮らしの人は、いざというときのために、脱衣所にスマートフォンを持ち込むことも対策のひとつです。
入浴中
入浴時には、湯に浸かる前に十分にかけ湯でからだを温めます。心臓から遠い手足などから5回ほど行うのが良いでしょう。
湯の温度は41度以下、浸かる時間は10~15分に。額にうっすら汗をかく程度が適当です。
入浴すると水圧の影響で血圧が変化するので、最初に浸かるのはみぞおちあたりまでにとどめます。からだや髪を洗うのは、湯に浸かってからだを温めてからにします。
入浴後
入浴後は、浴室内で乾いたタオルでからだをしっかり拭く。
##「STOP!ヒートショック活動」
東京ガスや暖房機器メーカーなどは協力して、「STOP!ヒートショック活動」を展開しています。ホームページやツイッターで対策をわかりやすく発信しているので、チェックしてみましょう。
ヒートショック防止に役立つ製品も紹介されています。暖房機器メーカーのコロナの「ウォールヒート」は、壁掛けタイプの遠赤外線暖房機。狭い脱衣所のスペースも有効に使えます。東京ガスとパーパスが共同開発した見守り機能付き給湯器リモコンは、センサーで入浴中の居眠りなどの異常を検知し、同居家族に知らせます。
まとめ
大きな気温の変化によって血圧が急激に上下して、心臓や血管などの疾患を引き起こす「ヒートショック」は、特に高齢者に多く、注意が必要です。
ヒートショックが起こりやすい人には特徴があるので、セルフチェックシートなどで確認して、適切な対策を講じるようにしましょう。