「年金」と聞くと、なんだか難しくて縁遠い話だと感じていないだろうか?
あるいは、「どうせたいした額はもらえない」と諦めていないだろうか?
それは大きな間違いだ。
年金は、あなたの老後の生活を支える最も重要な収入源の一つであり、その制度には、知っているか知らないかで手取り額が何十万円、いや何百万円も変わるような「得ワザ」と、逆に大きく損をしてしまう「落とし穴」が隠されている。
あなたが「大損」しないために、そして少しでも「得」をするために、ぜひ知っておきたい年金の話を具体的に解説していく。
漠然とした不安を解消し、明るい老後を迎えるための第一歩を踏み出そう。
1. 「繰り下げ受給」は最強の得ワザ?〜増額率の魔力
年金を受け取る年齢は、原則65歳からだ。
しかし、この受け取り開始時期を遅らせる「繰り下げ受給」という制度があることをご存知だろうか?
これが、知っている人だけが得をする、まさに「最強の得ワザ」だ。
繰り下げ受給を選ぶと、1ヶ月遅らせるごとに年金額が0.7%増額される。
最大で75歳まで繰り下げることができ、その場合の増額率はなんと84%(0.7%×12ヶ月×10年)にもなる。
例えば、65歳で年間120万円の年金を受け取る予定だったとしよう。
これを70歳まで繰り下げると、年金額は120万円 × (1 + 0.7% × 60ヶ月) = 120万円 × 1.42 = 170.4万円になる。
月額で約4.2万円も増える計算だ。
もし75歳まで繰り下げれば、年間220.8万円と、実に100万円近くも増えることになる。
もちろん、繰り下げた期間は年金がもらえないため、その間の生活費をどうまかなうかという問題はある。
しかし、長生きするほど総受給額は大きくなるため、健康に自信がある人や、他の収入源がある人にとっては、検討する価値のある非常に有利な選択肢と言える。
平均寿命が延びる現代においては、真剣に考えるべき「得ワザ」だ。
2. 「加給年金」と「振替加算」〜忘れがちな家族手当
年金は個人のもの、と思われがちだが、実は家族構成によってもらえる年金が増える制度がある。
「加給年金」と「振替加算」がそれだ。これらを知らずにいると、年間数十万円もの「家族手当」を受け取り損ねている可能性がある。
加給年金は、厚生年金に20年以上加入している人が65歳になった時点で、扶養している配偶者や子供がいる場合にもらえる年金だ。
配偶者には年間約39万円、子供には2人目まで年間約7.5万円が加算される(条件あり)。
特に注意したいのは、配偶者が65歳になると、加給年金は原則として支給停止になるという点だ。
しかし、ここで登場するのが「振替加算」だ。配偶者が年金を自分で受け取り始める際、一定の条件を満たせば、加給年金の代わりに配偶者自身の老齢基礎年金に上乗せして支給される制度だ。
これらの制度は、自分から申請しないと受け取れない場合がある。
年金事務所は全てを教えてくれるわけではない。
家族の年金状況を把握し、条件に当てはまる場合は積極的に情報収集と申請を行うことが「大損」を避ける鍵となる。
3. 「働きながら年金をもらう」時の注意点〜在職老齢年金の落とし穴
60歳以降も働き続ける人が増えているが、実は働きながら年金を受け取る場合、「在職老齢年金」という制度によって年金が減額されたり、全額支給停止になったりする可能性がある。
これを知らずにいると、「こんなはずじゃなかった」と後悔することになる。
在職老齢年金とは、60歳以上65歳未満、または65歳以上で老齢厚生年金を受け取っている人が、給与収入と年金額の合計額が一定額を超えると、年金の一部または全額が支給停止される仕組みだ。
2024年度の基準では、65歳以上の場合は「基本月額+総報酬月額相当額」が50万円を超えると年金が減額される。
「損をしたくない」と考えるなら、働き方や給与額を調整することも検討する必要がある。
例えば、給与を少し減らして年金が全額もらえるようにしたり、逆に給与を大幅に増やして年金が停止しても生活に困らないようにしたりといった戦略だ。会社の退職金制度や、他の資産とのバランスも考慮し、シミュレーションを行うことが「落とし穴」を避けるためには不可欠だ。
4. 「年金定期便」は必ずチェック!〜あなたの未来を映す鏡
毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」。
多くの人が「なんだか難しそう」と開封すらしないかもしれないが、これはあなたの未来の年金受給額が記された、非常に重要な書類だ。
これを確認しないのは、老後の資金計画において「大損」に繋がる可能性が高い。
ねんきん定期便には、これまでの年金加入期間や保険料納付額、そして将来受け取れる年金額の見込み額が記載されている。
特に重要なのは、「これまで支払った保険料と、記載された加入期間が合っているか」を確認することだ。
もし間違いがあれば、将来受け取れる年金額が減ってしまう可能性があるため、速やかに年金事務所に問い合わせる必要がある。
また、50歳以上で届く定期便には、将来受け取れる年金額の見込みが具体的に記載されている。
これを見て、「この金額で老後を暮らせるだろうか?」と現実と向き合うきっかけにすべきだ。
不足すると感じた場合は、iDeCoやNISAなどの資産形成を始める、働き方を考える、生活費を見直すなど、具体的な対策を講じる必要がある。
5. 「年金分割制度」は離婚時の強い味方
熟年離婚が増える現代において、知っておきたいのが「年金分割制度」だ。
これは、婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額や標準賞与額)を夫婦で分割できる制度だ。
特に専業主婦(主夫)だった期間が長い場合、自分で厚生年金に加入していなくても、配偶者の厚生年金記録の一部を自分の年金記録として分割してもらうことができる。
これにより、離婚後の生活基盤を安定させる大きな助けとなる。
年金分割には「合意分割」と「3号分割」の2種類があり、手続きも複雑だ。
離婚を考えている場合だけでなく、将来的なリスクとして、この制度の存在を知っておくことは非常に重要だ。
知らないと、離婚後に年金がほとんどもらえず「大損」することにもなりかねない。
6. 「年金は税金がかかる」という現実〜計画的な納税準備
年金は非課税だと思っている人もいるかもしれないが、実は一定額以上の年金には所得税や住民税がかかる。
これを知らずにいると、確定申告で思わぬ税金が発生し、「こんなはずじゃなかった」となることがある。
年金収入から公的年金等控除を差し引いた金額が課税対象となる。
また、年金から自動的に源泉徴収されるケースもあれば、確定申告が必要な場合もある。
特に、年金以外の収入(例えば不動産収入や副業収入)がある場合は、注意が必要だ。
老後の生活設計を立てる際には、手取り額を意識することが重要だ。
年金収入だけでなく、税金や社会保険料が引かれた後の金額で生活できるかをシミュレーションしておくことが、「大損」を避けるための賢い準備となる。
7. 「iDeCo」と「NISA」は年金にプラスアルファの最強制度
公的年金だけでは不安、という人が増えている。
そんな時にぜひ活用したいのが、国が用意した私的年金・資産形成の優遇制度である「iDeCo(個人型確定拠出年金)」と「NISA(少額投資非課税制度)」だ。
これらを活用しないのは、もはや「大損」と言えるだろう。
iDeCoは、自分で掛金を拠出し、自分で運用する私的年金制度だ。
掛金が全額所得控除の対象となるため、所得税・住民税が安くなる。
運用益も非課税で再投資され、受け取り時も税制優遇があるという、まさに「税制優遇ののデパート」のような制度だ。
老後資金を準備しながら節税もできる、一石二鳥の制度と言える。
NISAは、投資で得た利益が非課税になる制度だ。
つみたてNISAであれば年間120万円、一般NISAであれば年間240万円の投資枠があり、それぞれ最長20年間(つみたて)または5年間(一般)非課税で運用できる。
2024年からは新NISAが始まり、さらに非課税投資枠が拡大された。
これらの制度を年金と組み合わせることで、公的年金だけでは足りない老後資金を効率的に準備できる。
非課税の恩恵を最大限に活用し、自らの手で豊かな老後を築くことが、「大損」を避けるための最後の砦となる。
まとめ:年金は「知れば知るほど得をする」ゲームだ
年金は、複雑で分かりにくいと感じるかもしれない。
しかし、今回解説したように、その制度の中には、私たちの老後を豊かにするための様々な「得ワザ」と、「知らずにいると大損する」落とし穴が潜んでいる。
年金に関する知識は、まさにあなたの「未来の財産」だ。
繰り下げ受給で年金額を増やす、加給年金や振替加算を漏れなく受け取る、在職老齢年金の仕組みを理解して働き方を調整する、ねんきん定期便で自分の状況を把握する、離婚時の年金分割を知る、そして税金を考慮に入れた上でiDeCoやNISAで資産形成を行う。
これらは全て、あなたが主体的に行動することで、より良い老後を迎えられるための具体的なステップだ。
難しいと感じたら、迷わず年金事務所やFP(ファイナンシャルプランナー)などの専門家に相談しよう。
年金は「知れば知るほど得をする」ゲームなのだ。
今日から、あなたの年金について真剣に考えてみよう。