法要を執り行う際、僧侶に渡す「お布施」は多くの人が知っているだろう。
しかし、そのお布施とは別に、「御膳料(おぜんりょう)」という言葉を耳にしたことはあるだろうか。
これは、法要の際に会食の席を用意しない場合に渡すもので、その意味や渡し方について、多くの人が疑問を抱いている。
「御膳料って必ず渡さなければいけないの?」 「相場はいくらくらい?」 「お布施とは一緒に包んでいいの?」
本稿では、お布施と一緒に渡す「御膳料」について、その意味から相場、渡し方に至るまで、徹底的に解説する。
なぜ御膳料を渡すのか、その背景にある仏教の考え方も含めて理解することで、故人への供養の心がより深まるだろう。
1. 御膳料とは何か?〜その意味と役割
御膳料とは、法要後の会食(お斎:おとき)に僧侶が参加しない場合に、その代わりとして渡すお金のことだ。
簡単に言えば、「お食事代」である。
仏教の教えでは、法要後の会食は、故人を偲び、参列者同士が故人の思い出を語り合う大切な時間とされている。
この会食に僧侶も同席し、故人を偲ぶのが本来の形だ。
しかし、僧侶が次の予定があったり、遠方であったりして会食に参加できない場合がある。
そうしたときに、「食事の席に参加していただくことができず申し訳ございません」という気持ちを込めて、御膳料を渡すのが慣例となっている。
御膳料は、あくまで僧侶の「食事代」であり、法要を執り行っていただいたことへの謝礼であるお布施とは明確に異なる。
2. なぜ渡すのか?〜仏教の考え方と日本の慣習
御膳料を渡す行為には、日本の慣習と仏教の教えが深く関係している。
- 慣習としての「おもてなし」
日本では、人を家に招いた際に食事でもてなすのが礼儀とされてきた。
法要も同様で、故人を供養するために来てもらった僧侶に対し、食事でもてなすのが当然の礼儀とされてきたのだ。
会食に参加できない場合でも、その「おもてなし」の気持ちを金銭という形で表すのが御膳料なのである。
仏教の「お供え」としての側面
仏教において、会食は単なる食事ではない。
「お供え」としての意味合いも持つ。
仏様や故人に食事を供えるのと同じように、僧侶に食事を供えることで、故人の供養につながると考えられている。
御膳料は、そのお供えの気持ちを金銭に代えて渡すものだ。
このため、御膳料は感謝の気持ちだけでなく、故人の冥福を祈る追善供養の一部でもあると言える。
3. お布施と御膳料、それぞれの相場と正しい渡し方
御膳料を渡す際、最も悩むのがその金額だろう。
お布施とは別に、封筒や渡し方にもマナーがあるため、事前にしっかりと確認しておくことが大切だ。
御膳料の相場
御膳料の相場は、一般的に5,000円から10,000円とされている。
これは、僧侶が会食に参加した場合の食事代と同程度の金額だ。
地域の慣習や、法要の規模によっても変動することがあるため、迷った場合は事前に親族や葬儀社、あるいは直接お寺に確認してみるのが確実だ。
お布施の相場
お布施は、法要の種類によって相場が大きく異なる。
- 一周忌法要: 3万円から5万円
- 三回忌法要: 1万円から5万円
- 四十九日法要: 3万円から5万円
お布施は、あくまで「謝礼」ではなく、仏様や故人への「お供え」であり、読経していただいたことへの感謝の気持ちとして渡すものであることを理解しておくことが重要だ。
4. 御膳料とお布施、渡し方のマナー
御膳料とお布施は、それぞれ別の封筒に入れて渡すのが正しいマナーだ。
一つにまとめてしまうと、何に対するお金なのかが不明確になってしまい、失礼にあたる可能性がある。
御膳料の包み方と表書き
御膳料は、白い無地の封筒に入れるのが一般的だ。
水引は不要である。
表書きは、「御膳料」と毛筆や筆ペンで書く。
氏名は、下段にフルネームで書くのが基本だ。
お布施の包み方と表書き
お布施は、奉書紙(ほうしょがみ)という和紙で包むのが最も丁寧な方法だ。
市販の白い無地の封筒でも構わないが、郵便番号の枠が印刷されているものは避ける。
表書きは、「御布施」または「お布施」*と書く。
渡すタイミング
御膳料とお布施は、法要の当日、僧侶が到着した際か、法要が終わりお見送りする際の挨拶のタイミングで渡すのが一般的だ。
可能であれば、お盆の上にそれぞれを乗せて渡すのが最も丁寧な作法である。
直接手で渡す場合は、両手で持ち、相手に表書きが見えるように差し出す。その際に、「本日はありがとうございました。心ばかりではございますが、お布施と御膳料でございます」などと一言添えるとより丁寧な印象になる。
5. 御膳料と「お車代」の違い
御膳料とよく似た言葉に「お車代」がある。
これも、お布施とは別に渡すお金だ。
お車代とは
お車代とは、自宅や会館などに僧侶に来ていただいた際の「交通費」のことだ。
こちらも、会食の代わりである御膳料とは明確に異なる。
相場は、5,000円から10,000円が一般的だが、遠方から来ていただく場合は、実費を考慮して多めに包むのが良い。
渡す際のマナー
お車代も御膳料と同様に、白い無地の封筒に入れて渡す。
表書きは「御車代」と書く。
6. 宗派による違いと、最終的な確認
御膳料や御車代に関する慣習は、宗派や地域の慣例によって異なる場合がある。
例えば、浄土真宗では、お布施は「御布施」ではなく「御懇志(おこんし)」と書くのが良いなど、細かな違いが見られる。
また、そもそも御膳料が必要かどうかについても、お寺や住職の考え方によって異なる場合がある。
僧侶が会食に参加できないことが分かっている場合は、事前に直接、お寺に「御膳料は必要でしょうか?」と確認するのが最も確実で失礼がない。
ただ、「お気持ちで」と答えてくれない場合もあるので注意しよう。
7. まとめ:大切なのは感謝の気持ち
お布施や御膳料、お車代といった金銭のやり取りは、やや複雑に感じられるかもしれない。
しかし、これらはすべて、故人の供養のために尽力してくださる僧侶への感謝と、故人を大切に想う心を表すものだ。
大切なのは、形式にこだわることではなく、故人を想う気持ちと、僧侶への心からの感謝の気持ちである。