従来の「一般葬」、つまり親族はもとより会社関係、友人、知人、地域のかたがたを幅広くお呼びする葬儀形態に対し、家族葬は家族、親族、ごく近しい友人だけでゆっくり故人とお別れをしたい方々に選ばれています。かつてお葬式は大きなイベントで、多くのかたがたに参列していただき盛大に執り行うのがよいお葬式、立派なお葬式といわれていた時代もありました。
しかし近年、葬儀の規模を縮小した家族葬を好むかたが多くなっています。2017年の公正取引委員会による調査では、家族葬の割合が全体の28.4%という結果が出ており、今後も増加すると考えられます。今回は、家族葬とは具体的にどのような葬儀を指すのか、家族葬が増えてきた社会背景、家族葬を行うメリット・デメリット、また執り行う上での注意点を考えていきます。
●家族葬とは
家族葬に厳密な定義はなく、故人とごく親しい人たちで執り行う葬儀を「家族葬」と呼ぶようになりました。家族と名がつくため、家族だけで行う葬儀と解釈する人がいるかもしれませんが、家族に限らず、故人と親しかった親戚や友人をお呼びすることができます。近年、家族葬が増えている理由として、以下の3点が考えられます。
・ 参列者を家族、親族、親しい友人に限定し、故人とのお別れの時間をゆっくりとりたいという考え方が浸透してきたため
・ 参列者を限定することにより、葬儀費用を抑えたいと考える人が増えたため
・ 故人が高齢で親しいかたがすでに他界しているか、長い入院や施設入所で人付き合いがほとんどないため
●家族葬は今後どうなっていくか
少子高齢化で核家族が多くなり、独り暮らしの高齢者も増えてきました。昔のような大家族は、あまり見られなくなっています。特に都市部では、親戚づきあいやご近所づきあいも希薄になる傾向にあります。そのような背景から、故人の子どもの会社関係やつきあいのなかった遠い親戚、町内会のかたがたといった儀礼的な参列者にはお声掛けをせず、故人とゆかりのある人たちだけでのお見送りを希望する人が、今後も増えてゆくと思われます。
●一般葬と家族葬の比較
以下におおまかな比較をあげてみます。
一般葬 | 家族葬 | |
---|---|---|
葬儀の規模 | 大きい | 小さい |
参列者の数 | 多い(30人以上) | 少ない(30人以下) |
参列者の顔ぶれ | 故人と直接かかわりのない人も含まれる | 故人とごく親しい関係にあった人のみ |
葬儀費用 | 高額(100~200万円) | 低額(50万円前後) |
(注:費用に関してはあくまで比較であり、見積もりを出してもらうことが必要)
●家族葬のメリットとデメリット
さて、近年たいへん注目されてきている家族葬ではありますが、メリットとともにデメリットも考えられますので、後悔のないように十分に検討したいものです。
▼家族葬のメリット
・ 参列者が限られるので、儀礼的な接待に費やす費用と時間を減らすことができる
・ 参列者が少ないため、故人とのお別れの時間をじゅうぶんにとることができる
・ 参列者のおおよその人数が事前にわかるため、香典返し、飲食代、式場費などの葬儀費用の計算がしやすい
・ 不慮の事故や事件による死去など、故人の死亡理由を話したくない、詮索されたくないケースに対応しやすい
▼家族葬のデメリット
・葬儀の規模を縮小することで葬儀費用の総額は抑えられるが、参列者が少ないので香典で費用を補填することが難しい
・人づてに逝去を知ったかたがたが後日弔問に訪れることもあり、場合によっては数カ月も続くことがある
・新聞に死亡広告を出さず個別に電話で葬儀の詳細を知らせるため、故人の交友関係を把握しておかないと連絡もれが起きることがある
・ 誰をお呼びし、誰をお呼びしないかの線引きが難しく、連絡をしなかった人から後日「どうして知らせてくれなかったのか」と非難される場合がある
●家族葬を執り行うために準備できること
ここからは、家族葬の準備段階として事前にできることを考えていきます。ポイントは以下の3点になります。
- ①周囲の理解を得ること
- ②故人の希望に沿うこと
- ③訃報を知らせる範囲を決めておくこと
①周囲の理解を得ること
比較的都市部の若い層に「親の葬儀は身内だけで、こぢんまりと行おう」と考える人が増えてきました。一方、「きちんと従来の葬儀をあげるべき」と考えるかたがいることも、考慮しなくてはいけません。従来の葬儀は「一般葬」と呼ばれますが、一般葬がきちんとした葬儀の本来あるべき姿と考え、家族葬には簡略化した葬儀のイメージをもつ人もいるのです。
最終的には喪家のかたがたで決めるとしても、事前に近しいお身内には家族葬で執り行いたいことを説明し、理解を得ておくことが必要です。のちのち「葬式を簡単に済ませた」とか「葬式の費用を出し惜しんだ」などと非難されることのないよう、家族葬にしたい旨をはっきりと伝えておきましょう。葬儀は突然行うことになるため、事前に準備できることは限られていますが、お身内に高齢のかたや病気で余命が限られているかたがいる場合は、おおまかでよいので事前に「このような葬儀にしたい」ということを周囲と相談しておくことをお勧めします。
葬儀のやり方で意見が割れ、貴重な時間を無駄にすることは避けたいものです。家族葬で行う理由として最も説得力があるのは、「故人の遺志ですので」という一言です。ご親族に少々口うるさいかたがいて家族葬に反対なさる場合には、あくまで故人が望んだことだとするのがベストです。
②故人の希望に沿うこと
最近では80歳代から90歳代でもお元気なかたがたくさんいらっしゃいますが、エンディングノートなどに自分の葬儀に関する希望を書いている人は少ないと思われます。
その世代のかたには「自分の葬式のことを書いておくなんて縁起でもない」と考えるかたが多いのです。それでも、何か書き残したものがないか、十分に確認することが必要になります。
「自分の葬儀には誰々を呼んでほしい」「遺影はこの写真を使ってほしい」「お墓はどこに入りたい」などの希望が書かれたものが見つかるかもしれません。可能な限り、故人の希望に沿った葬儀をあげたいものです。
③訃報を知らせる範囲を決めておくこと
近いうちに葬儀になりそうだという段階で家族葬にすることを決めたら、次に参列者の範囲を決めておきます。迷うのが「呼んだらいいのか、呼ばなくていいのかすぐに決められない人」です。通常、「迷ったかたはお呼びするのが無難」とされています。なお、町内会や自治会で不幸があった場合に、回覧や掲示で周知することが慣例になっている地域が多いことでしょう。
ご近所のかたがたには参列を控えていただきたい場合、町内会や自治会の会長さんには「葬儀は家族のみで執り行います」と伝えておきます。ご近所に自分の家で不幸があったことを伏せておくつもりでも、葬儀社の車の出入りや出棺などは目につきやすいものです。むしろ、自治会長さんなど責任者のかたには連絡をして、家族葬であることをはっきりお伝えするのがよいでしょう。
遠方に住んでいるため、自分の親の日ごろの交友関係がわからず、訃報をどなたに知らせたらよいかわからない場合もあります。そのようなときは住所録、電話帳が役に立ちます。故人が携帯電話やスマートフォン、パソコンを使っていたのならアドレス帳が参考になりますし、最近の年賀状や手紙なども、交友関係を知る手がかりになります。
●終活のススメ
さて、お葬式といえば「終活」を連想するかたが多いかもしれません。「家族葬」のテーマから少し離れますが、終活についても触れておきたいと思います。
現在終活中のかた、今後終活を行っていきたいが具体的にはどうしたらよいか考えているかたに参考になれば幸いです。終活ということばが一般的になってきたのはこの10年ほどで、『現代用語の基礎知識』2010年版から掲載されはじめ、2012年の流行語にも選ばれています。その後、書籍やテレビ、インターネットで繰り返し取り上げられるテーマのひとつとなりました。終活はごく最近広く知られるようになった概念で、一言でいうと「人生の終りについての活動」ということです。
具体的には以下の活動が含まれます。
エンディングノートを書く
生前整理をする
遺言書を作成する
▼エンディングノートを書く
エンディングノートとは自分の情報を1冊のノートに記載しておくことで、自分が亡くなったあとに遺族が困らないようにしておくものです。自分の基本情報のほかに、預貯金はどこにあるか、資産はどんなものがどれくらいあるか、クレジットカード情報、生命保険、損害保険、借入金やローンなどを記入しておくと家族はとても助かることでしょう。
また、自分がもしものときに連絡してほしい人のリストを、親族、友人・知人、仕事関係などカテゴリー別に書いておきます。延命措置についても意思表示をしておきましょう。回復の見込みがなく死期が迫った場合の延命措置を希望するのか、しないのかの意思表示があると家族は迷わなくて済みます。臓器提供や検体の希望があれば、その旨も記載しておきます。どのような葬儀にしてもらいたいか、納骨場所はどこにするか、具体的に思いつく人は書いておくとよいでしょう。エンディングノートは、一気に完成させなくてはいけないものではありません。書けるときに書ける部分だけでよいのです。
また、状況が変わったり考え方が変わったりしたときには、何度でも書き直しが可能です。自分の葬儀を「家族葬」で執り行ってほしい場合、このエンディングノートにその旨を明記し、呼んでほしい人たちの氏名と連絡先を記入しておきます。
そのような準備があると、遺族は「故人の希望により」という理由で迷うことがなく家族葬をあげることができるでしょう。
*エンディングノートに記載しておきたい項目の例
基本情報:氏名、生年月日、住所、本籍
公的管理番号:健康保険証、運転免許証、パスポート、マイナンバー
預貯金:金融機関、口座番号(悪用防止のためキャッシュカード暗証番号や通帳、印鑑保管場所は書かないこと)
年金:公的年金基礎年金番号、私的年金の種類
資産:有価証券、不動産
その他の資産:自動車、美術品、骨董品、貴金属、ブランド品
借入金・ローン:住宅ローンなどの借入先と残債
クレジットカード:カード名称、カード番号
保険:保険会社名、保険の種類(商品名)
携帯電話・パソコン:契約会社、電話番号、プロバイダ名、メールアドレス、ブログやホームページのURL
家族一覧:氏名、電話番号
親族一覧:氏名、電話番号
友人・知人、仕事関係一覧:氏名、電話番号
葬儀の希望:宗派、喪主になってほしい人、葬儀に呼んでほしい人、納骨場所
形見分けしたいものリスト:品名、相手の氏名、連絡先、自分との関係
▼生前整理を行う
終活のなかで大切なのが、遺族による遺品整理の負担を軽くするための生前整理です。遺品整理は、遺族にとって心身ともにたいへんな作業になります。
死というものは、必ず誰かの手を借りなくてはいけない性質のものですが、残された人たちの負担を少しだけ軽くしてあげるつもりで、生きているうちに身辺の整理を行うことが近年は推奨され、関連書籍もたくさん出版されています。
また、生前整理はなにも亡くなったあとのためだけでなく、今現在を快適に過ごす意味でも行う価値があるものです。参考までに、遺品整理の場で遺族が「捨てるに捨てられない」と感じるものをあげてみます。
写真、アルバム
日記、手帳
手紙、はがき
和服、宝石、毛皮、ブランド品などの高額品
書籍、雑誌、コミック本
趣味の作品、道具、コレクション
領収書
上記のものは、遺族が遺品整理を行ううえで「つい手がとまってしまう」品々です。ほとんどが、故人のプライバシーにかかわるものですので、たとえ家族といえどもどうしたらよいのか途方に暮れてしまうことがあります。逆にいえば、そういったプライベートな品々は自分で生前整理の対象とし、処分をするか、エンディングノートに形見分けしたいと記載しておくことをお勧めします。日記や手紙など、生前に処分はできないけれど亡くなったあとに見られたくないのであれば「中身を読まずに捨ててください」と書き残しておけば大丈夫です。
趣味で集めたものについて、たとえば、編み物が大好きなおばあちゃんがいらしたとします。大量の手編みの作品、毛糸、編み物の道具や編み物の本が残されました。興味のない人にとっては不用品でしかありませんが、同じ趣味のお仲間にお譲りしたらきっと喜ばれることでしょう。
「編み物仲間の〇〇さんに毛糸と道具一式をもらってほしい」と書き残されていたら遺族はどんなに助かるでしょうか。生前整理はなにも、生きているうちからたくさんのものを処分しなくてはいけないということではありません。自分がこの世を去った後に、自分の持ち物をどのように取り扱ってほしいかを言い残す、書き残すことも生前整理にあたります。
▼遺言書を作成する
遺言書については必要か必要でないかの意見が分かれるところですが、相続に関する希望がある場合は作成するのがベターです。遺された人たちの間で思わぬトラブルが発生しないよう、用意するに越したことはありません。以上、家族葬とはどういった葬儀を指すのか、メリットとデメリットはどんなものがあるか、行う前の準備はどうするかについて記しました。
葬儀は生きているあなたにとっても、亡くなられた故人にとって一生に一度のもの、やり直しがききません。日ごろから情報収集を行い、葬儀に対する自分の考えをまとめておくことで、後悔のない式をあげられるのではないでしょうか。
そこで最後に
●「失敗しない家族葬」の極意3ヵ条!
- 家族葬で執り行う希望を周囲に話し、理解を得ること
- 故人が言い残したり書き残したりした希望があれば、それに沿うこと
- 訃報を知らせる範囲を決めて、儀礼的な参列者は遠慮していただくこと
頭の片隅に入れておいてください。