知っておきたい生前贈与の活用法

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はじめに

「遺産相続で遺族が揉める」というのは、決してドラマや小説の中だけのことではありません。
たとえ法律で決まっている分配であっても、遺族の心情としてモヤモヤすることはよくあるものです。

また、遺産の額が多ければ多いほど相続税も高くなっていきます。
死後に家族が揉めたり高い相続税で遺産が減ったりするのを防ぐためには、生前贈与することがおすすめです。

そこで、お得に財産を贈与できる方法について解説をしていきます。

生前贈与とは

通常、自分の財産は自分の死後に遺産として配偶者や子孫に相続され、相続された側は遺産の額によって相続税を支払います。
相続税は額が上がると税率も上がっていきますので、多額の遺産を相続するとそれに伴って多額の相続税を払うことになるのです。

そのため、多く用いられているのが、生前から財産を配偶者や子孫に贈与する「生前贈与」です。
生前から財産を分けると、死後に分配する遺産の総額が減るため相続税の負担を軽くすることができます。

相続税と贈与税は、税率だけを比べると贈与税のほうが高いのですが、生前贈与は条件を満たせば一定額が非課税になる措置が多くあります。

若い世代がまとまった財産の贈与を受けることで経済が回ることを期待して、生前贈与のほうが優遇されているのです。
そのため、同じ額を渡すのなら生前に贈与がずっと得な場合が多いのです。

お得に財産が贈与できる生前贈与の方法

実際に贈与税がかからない生前贈与には、期間限定の特例と期間関係なく適用される優遇措置があります。

子や孫に対して住宅資金を贈与(2021年までの措置)

以下の条件に当てはまる場合に利用できる措置です。

・贈与を受ける子や孫が1月1日の時点で20歳以上であること
・贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下であること
・配偶者の親や配偶者の祖父母からの贈与は対象外(養子縁組をしている場合は対象)

子や孫に対して父母や祖父母が住宅購入資金の贈与をすると、契約の締結日や住宅の種類などによって異なりますが、最大3,000万円までが贈与税非課税となります。
この特例は、後にご紹介する「暦年贈与」との併用が可能です。

ただし、贈与を受けた年の翌年の3月15日までに贈与額の全宅を当てて住居を新築するなどして、その日までにその住居に住むこともしくは住むことが確実であることも条件となります。

教育資金・結婚資金・子育て資金として贈与(※2021年3月31までの措置)

親や祖父母から子や孫に対して、教育資金・結婚資金・子育て資金として贈与します。

・教育資金:子孫1人に対して1,500万円
・結婚、子育て資金:1人に対して1,000万円

いずれも一括で贈与すると、上記の金額に対して贈与税が非課税となります。

暦年贈与

1月1日から12月31日までの1年間に贈与された額のうち、110万円分以内の贈与に対して非課税になります。
「年間110万円までの贈与には税金がかからない」と言われているのは、この措置のことです。

400万円の現金を一度に贈与された場合、非課税分の110万円を差し引いた290万円に贈与税がかかりますが、4年に分けて毎年100万円ずつ贈与を受けると4年間一度も贈与税はかかりません。

暦年贈与は何年も繰り返し行うことができますので、多額の財産を数年にわたって少しずつ贈与することができます。
また、複数の人に110万円ずつ小分けして贈与することもできます。
贈与を受ける場合も複数の人から贈与を受けることができますが、合計額が110万円を超えた分からは贈与税がかかります。

暦年贈与は贈与税がかからず、贈与を受けた人は税務署に申告する必要はありませんが、暦年贈与であることに関する証拠を残しておかないと後から課税の対象となることがありますので注意が必要です。

また、現金を贈与する場合は手渡しではなく、銀行口座に振り込んで通帳に記録を残すようにしましょう。

生活費や教育費として贈与

自分の家族や孫などとの生活費として使う場合は、贈与税の対象とはなりません。

ただし、現金で贈与された場合に生活費や教育費として使わずに、貯金をしたり株式や不動産を購入するなど、別の用途に使った場合には贈与税がかかってしまいます。
また、贈与された年に使いきれなかった分に対しても贈与税がかかります。

おしどり贈与

婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用の不動産かその購入資金を贈与した場合は2,000万円までが贈与税非課税となります。

夫婦間であれば、夫から妻でも妻から夫でもどちらでも適用されます。
この特例措置は暦年贈与との併用が可能ですので、暦年贈与の非課税枠である110万円と合わせると2,110万円まで贈与税がかかりません。

ただし、同じ配偶者からの贈与は1回限りの適用となります。
また、贈与を受けた翌年の3月15日までに、贈与された不動産もしくは贈与された資金で購入した不動産に居住する必要があります。

この非課税措置は特例措置となりますので、適用されるためには贈与税の申告が必要になります。
申告をしなかった場合は贈与税がかかってしまいますので注意が必要です。

相続時精算課税制度

以下の条件を満たしているときに適用される制度です。

・贈与する人(贈与者)は贈与があった年の1月1日の時点で60歳以上で、贈与を受ける人の父母か祖父母であること
・贈与を受ける人は、贈与があった年の1月1日の時点で20歳以上で、贈与者の子や孫であること

この制度は、生前贈与された額と亡くなったときの遺産を一体のものとして課税する制度です。

この制度を適用すると、生前贈与された額のうち2,500万円までは贈与税が非課税になります。
2,500万円を超えた分には贈与税がかかりますが、贈与者が亡くなってまた新たに遺産を相続し、相続税を申告するときに清算することができます。

また、一度適用すると撤回することはできません。
同じ贈与者からの贈与については、贈与者が亡くなるまで相続時精算課税制度を適用し、暦年贈与の年間110万円の非課税枠は使えません。

この制度は少しややこしい面もありますが、以下のメリットもあります。
・多額の財産を渡すことができる
暦年贈与の非課税枠110万円を終える多額の額を子や孫に渡すことができます。
そのため、住宅購入資金や教育費など、まとまった額のお金が必要な時期に渡すことができるのです。

・贈与したときの価格で計算される
贈与したときに500万円の価値だったものが、贈与者が亡くなったときに1,000万円の価値になったとしても、相続財産に加算される金額は500万円として計算されます。

不動産や株式など、将来値上がりしそうなものを値上がり前に贈与すると、後の相続税を軽くすることができるのです。

障害者への贈与

贈与を受ける人が特別障害者の場合は6,000万円まで、特別障害者以外の特定障害者の場合は3,000万円までが贈与税非課税になります。

この制度を適用するためには、信託銀行に資金を信託し、金融機関を経由して税務署に届け出をすることになります。
信託口座の資金は、贈与を受けた人の生活費や医療費として定期的に払い出しをされます。

教育資金として子どもや孫に贈与

30歳未満の子どもや孫に対して、親や祖父母から贈与する教育資金に関しては、1,500万円までが贈与税非課税になります。
ただし、2019年7月1日から「贈与を受ける人の前年の所得が1,000万円以下であること」という条件が追加されました。

この制度を適用するためには、教育資金口座を開設し、その金融機関を通じて納税地の税務署に届け出をします。

ここでいう教育費とは、授業料、受験料、学校の施設費など学校に支払い金額のほか、修学旅行費や給食費、通学のための交通費などです。
また、塾や習い事に関する費用も適用されますが、学校以外の教育に関する費用に関しては500万円までとなります。

贈与を受けた人が30歳を超えた時点で教育資金口座に残高がある場合は、その残高に対して贈与税がかかります。
ただし、2019年7月1日以降、贈与を受けた人が30歳を超えても学校に通っている場合は、40歳まで延長されることになりました。

また、贈与者が亡くなった場合、この教育資金は相続税の対象にはなりません。

生命保険の使用においての生前贈与

少し変わった方法ですが、直接財産を贈与するのではなく生命保険を使って贈与する方法です。

生命保険を使って贈与をする方法は以下の2つです。

・子どもを受取人とする
生命保険で受け取る保険金は、相続財産に含まれますが「500万円×法定相続人の人数」の金額は非課税となります。
そのため、たとえば親が契約者として保険料を支払い、子どもを受取人にしておくと法定相続人は500万円まで非課税で保険金を受け取ることができます。

ただし「500万円×法定相続人の人数」の額を超えた分に対しては課税の対象となります。

・保険料相当分を生前贈与する
まず、贈与したい相手が保険の契約者と受取人になり、贈与者が被保険者となる生命保険に加入します。
そして、贈与したい相手が支払う保険料を贈与者が贈与すると、暦年贈与の控除額110万円以内なら贈与税非課税になります。

そして、贈与者が亡くなったときに相続人が保険金を受け取ることになりますが、保険金が500万円以下であれば贈与税も相続税もかかりません。

この保険金には所得税がかかることになりますが「一時所得」といって、相続税とは違った計算式で算出されます。
ただ、同じ金額に相続税がかかる場合と比べると税の負担は軽くなる場合が多くなります。

まとめ

贈与税が非課税になる措置はたくさんあります。

適用されるための条件があったり、贈与した財産の用途が限られていたりするものもありますが、当てはまるものがあれば生前贈与をするとお得に贈与することができます。

申告などが必要な措置もありますので、手順などを確認して正しく生前贈与をしていきましょう。